ウクライナ政府は、2035年までを対象とする「バイオメタン生産開発プログラム」の策定を進めている。経済・環境・農業省が公表した閣議決定案は、農業・畜産廃棄物から生産される再生可能ガスによって、輸入天然ガスの一部を段階的に代替する道筋を示すものだ。
この構想は、EU との連合協定および REPowerEU 計画に基づく再生可能ガス拡大目標と連動している。投資家にとっては、バイオメタンが単発のパイロット案件から、定量的な目標を持つ国家プログラムへと移行しつつあることを示すシグナルと言える。
現在 4,100万m³ から 2035年に 21億m³ へ
説明資料によると、ウクライナのバイオメタン生産量は 2024 年時点で約 4,100 万m³。2025 年末までに複数の新設プラントが稼働する見込みで、年間生産量は約 1 億 1,100 万m³ まで増える可能性がある。
中長期の公式目標は次のとおりだ。
- 2030年までに: 年間 10 億m³ 超。
- 2035年までに: 年間約 21 億m³。
- 長期ポテンシャル: 適切な条件が整えば年間 50 億m³ 規模まで拡大可能。
農業資源のポテンシャルを踏まえると、送電網への接続や投資環境が整えば、さらに大きな成長余地があると専門家は見ている。
農業廃棄物を活用した新たなエネルギー・チェーン
プログラムはウクライナの強力な農業基盤を前提としている。主な原料は、現在十分に活用されていない廃棄物フローだ。
- 穀物・トウモロコシなどのワラや収穫残渣。
- 牛・豚などの家畜ふん尿。
- 畜産・食品加工業から出るその他有機系廃棄物。
農業事業者にとって、バイオメタン・プラントは新たな収益源であると同時に、環境負荷の低い廃棄物処理手段ともなる。副産物である消化残渣(ダイジェステート)は有機肥料として利用でき、輸入化学肥料への依存低減と土壌への栄養循環を促す。
バイオメタン・プログラムの主要な柱
ドラフトでは、インフラ投資、制度改革、国際統合が組み合わされている。主な要素は以下の通りだ。
- 新設プラントと既存バイオガス設備の近代化。 既存のバイオガス施設を改造し、バイオガスをグリッド品質のバイオメタンへアップグレードできるようにする。
- 再生可能ガスに関する法制度の整備。 生産、ガス系統への注入、原産地保証などに関する法律・技術規格の見直し。
- 輸出に対する税・規制負担の軽減。 EU への輸出を妨げる過度な課税と規制を段階的に緩和。
- 投資インセンティブ。 資本集約的プロジェクト向けのリスク低減スキームや、気候ファイナンス・復興ファイナンスへのアクセス確保。
- Union Database(UDB)へのフル統合。 再生可能ガスの追跡・認証に用いられる EU 共通データベースへの参加を通じ、越境取引の基盤を整える。
年間最大 1,700 億m³ を輸送できる既存のガス輸送システムは大きなアセットだ。農村部で生産されたバイオメタンを国内需要地や将来の EU 市場へ届けるためのインフラとして活用できる。
エネルギー安全保障・気候目標・投資機会
プログラムの戦略的ゴールは、化石燃料ガスを段階的に国産バイオメタンへ置き換えることにある。これにより、
- 輸入ガス依存の低減とエネルギー安全保障の強化、
- EU の気候目標およびウクライナの NDC に沿った温室効果ガス排出削減、
- 農業・エネルギー両セクターでの投資・雇用創出、
が期待される。
投資家にとって、ウクライナのバイオメタンは「グリーン復興」ストーリーの一部だ。農村開発、脱炭素化、輸出収入、エネルギー自立を同時にドライブできる分野であり、プログラムが計画通り承認・実施されれば、2035年までのグリーン・トランジションを牽引するセグメントの一つとなる可能性が高い。
